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東京地方裁判所 昭和38年(特わ)305号 判決

被告人 西村誠

大一五・六・二七生 会社役員

木村朝生

大一五・一一・二二生 会社役員

主文

1  被告人木村を懲役一年および罰金七〇万円に、被告人西村を懲役六月および罰金四〇万円に処する。

2  ただし、この裁判確定の日から、被告人木村に対しては四年間、被告人西村に対しては三年間、それぞれ右懲役刑の執行を猶予する。

3  被告人らが右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

4  訴訟費用中証人山口博史、同武井康彦、同今出進、同河元介に支給したものの三分の一あてをそれぞれ各被告人の負担とする。

理由

(認定事実)

(一)  被告人西村、同木村は、外国為替公認銀行発給の外貨買取済証明書ないし輸出貨物代金前受証明書を譲渡すれば、これを取得した他人が、本邦で購買した貨物を韓国に向け輸出するにあたり、その代金の決済が標準決済方法によるものでないため、通商産業大臣の承認を受けなければならないのに、その承認を受けないまま、同証明書を利用し、これにもとづき外国為替公認銀行において輸出貨物代金が前払されたように虚偽の認証を受けた輸出申告書およびその付属書類を所轄税関に提出し、あたかも標準決済方法による貨物の輸出であるように仮装して、虚偽の輸出申告をし、当該係員を欺罔して無承認輸出をするに至ることの情を知りながら、

1  被告人西村は、昭和三四年一二月下旬頃、外国人エムリー・デ・ラウンド・セント・シオツクスから繊維委託証拠金等として明治物産株式会社に送られた額面五万ドルの小切手を日本円に換える際貨物代金として送金されたものである旨虚偽の申立をして同月二三日に東京都中央区日本橋小舟町一丁目一番地富士銀行小舟町支店より証明を受けた外貨買取済証明書(証明番号D(2)―九-〇一六二、証明金額六、〇〇〇ドル)を、同都内で、太田哲夫に代金約一四万円で売却譲渡し、

被告人木村は、太田哲夫と共謀のうえ、その頃、前記のように被告人西村から譲り受けた同証明書を、同都内で、中川稔こと徐光馬に代金約二三万円で売却譲渡し、

もつて、徐からさらに李錫玄を通じて同証明書を買受け入手した李義敦、奏東奎が、共謀のうえ、別表(一)記載のとおり、昭和三五年一月一六日より同年九月一〇日までの間に、前後五回にわたり、三角税関支署熊本出張所で、同支署係員に対し、税関貨物取扱人三角海運株式会社係員を介し、同表輸出貨物欄記載の丸竹、孟宗竹の輸出につき、それぞれ米国ドルで代金の前払がなされた標準決済方法によるものでないのにそうであるように装い、通商産業大臣の承認を受けないまま、同証明書にもとづいて同銀行支店より受けた標準決済方法によるものである趣旨の虚偽の認証のある輸出申告書およびその付属書類を提出してそれぞれ虚偽の輸出申告をし、同出張所係員をしてその旨誤信させて輸出許可をさせ、同表船積年月日欄記載の各年月日に八代港等に停泊中の同表船積船名欄記載の各船舶に右貨物をそれぞれ船積のうえ、韓国に向け出港させた虚偽申告ならびに無承認輸出の犯行を容易ならしめて、それぞれこれを幇助し、

2  被告人西村は、昭和三五年八月中頃、前記ヱムリー・デ・ラウンド・セント・シオツクスから株式投資金等として明治物産株式会社に送られた額面二万ドルの小切手を日本円に換える際貨物代金として送金されたものである旨虚偽の申立をして同月一七日に前記富士銀行小舟町支店より証明を受けた輸出貨物代金前受証明書(証明番号D(2)―六〇―〇〇一九、証明金額二万ドル)を、同都内で、太田哲夫に代金約五〇万円で売却譲渡し、

被告人木村は、太田哲夫と共謀のうえ、その頃、前記のように被告人西村から譲り受けた同証明書を、同都内で、河本介こと河元介に代金約七六万円で売却譲渡し、

もつて、河元からさらに同証明書を買受け入手した堀井憲雄、尹良寿が、共謀のうえ、同年九月二九日、京都府舞鶴市舞鶴税関支署で、同支署係員に対し、写真製版機等の輸出につき、標準決済方法によるものでないのにそうであるように装い、通商産業大臣の承認を受けないまま、同証明書にもとづいて同銀行備後町支店より受けた標準決済方法によるものである趣旨の虚偽の認証のある輸出申告書一一通(認証番号RC―D(8)―六〇―一〇〇〇三ないし一〇〇一三)およびその付属書類を提出して虚偽の輸出申告をし、同支署係員をしてその旨誤信させて輸出許可をさせ、同年一〇月一二日舞鶴港に停泊中の大起丸に右貨物を船積のうえ、翌一三日北朝鮮に向け出港させた虚偽申告ならびに無承認輸出の犯行を容易ならしめて、それぞれこれを幇助し、

(二)  被告人木村は、別表(二)記載のとおり、昭和三六年九月中旬頃から昭和三八年六月一日頃までの間一九回にわたり、東京都港区芝公園一三号地日活アパート内三協貿易株式会社事務室で、泉豊、小野弘延らから、対外支払手段である米ドル表示銀行小切手(カナダ国バンクーバー市ホーマーストリート一二二〇番地アール・エイ・ワイリー・アンド・サン・リミテツド・カンパニーからその在日買付機関アール・エイ・ワイリー商会のため送金されたもの)を、一ドルにつき三六五円ないし三七〇円の割合で買い受け、もつてそれぞれ、大蔵大臣の定めた基準外国為替相場によらないで取引したものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

(一)について

各虚偽申告幇助の事実はいずれも刑法六二条一項、六〇条、関税法一一三条の二に、各無承認輸出幇助の事実はいずれも刑法六二条一項、六〇条、外国為替及び外国貿易管理法七〇条二一号、四八条、輸出貿易管理令一条(各事実当時のもの)にあたる。各虚偽申告幇助とこれに関連する各無承認輸出幇助の事実は、それぞれ観念的競合になるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、結局各輸出申告に関する事実ごとに一罪として、いずれも無承認輸出幇助罪の刑に従う。それぞれ懲役・罰金を併科し、刑法六三条、六八条三号四号によつて従犯の減軽をする。

(二)について

各事実はそれぞれ外国為替及び外国貿易管理法七〇条一号、七条四項、昭和二四年一二月一日大蔵省告示九七〇号にあたる。いずれも懲役・罰金を併科する。

被告人両名について、いずれも刑法四五条、四七条、一〇条、四八条二項による(懲役刑は、被告人西村については(一)2の罪の刑について、被告人木村については(二)の最終の罪の刑について加重)。

同法二五条一項(主文2)、一八条(主文3)。刑訴一八一条一項(主文4)。

なお、(一)の各事実について、被告人らに違法の認識がなくかつこれについて相当な理由があつて、刑事責任を否定すべきであるような事情は、ないものと認める。

(無許可輸出幇助の訴因について)

(一)の各無承認輸出幇助の事実が、それぞれ同時に関税法一一一条一項の無許可輸出幇助になるとする各訴因については、通商産業大臣の承認が必要な場合であるかぎり、その承認がないのに輸出を許可することはありえないという関係はあつても、税関係員が欺罔された結果、当該貨物の輸出について現実に税関の許可が与えられて存在するものである以上、その許可の効力をどうみるかには必ずしもかかわりなく、許可を受けないで貨物を輸出することを幇助したものということは、どうしてもできないのある(欺罔手段によるものであるとはいえ、ともかく実際に許可を受けて輸出するのと、まつたくその貨物について許可を受けないで輸出するのとでは、社会的事実としてあきらかに類型的な差異があり、「許可を受けないで」輸出するという構成要件が前者をも含むと考えることは、罰条の解釈として、なんとしても無理であるといわなければならない。)

従つて、無許可輸出幇助の各訴因は罪とならないことになるが、これらの事実は、関連する虚偽申告幇助、無承認輸出幇助の事実とそれぞれ科刑上の一罪(観念的競合)の関係にあるものとして起訴されているのであるから、主文では無罪の言渡をしない。

(裁判官 戸田弘)

(別表(一)(二)略)

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